DCF法の長所・短所

■DCF法の長所・短所
 かつてわが国で利用されていた収益還元法は単年度の純収益を求め、この純収益が永続する場合のその総和を求めるために、単年度純収益を還元利回りで除することで収益価格を求める手法(直接還元法)でした。DCF法はこの単年度型の収益還元法と比較すると優れている点が多く、近年わが国では急速に普及したものですが、ここではDCF法のもつ長所と短所について述べておきます。
1.長所
①直接還元法では長期にわたる収支変動を平均化した単年度収支を作成するか、代替的に初年度収支を採用して収益価格を求めます。これに対してDCF法は予測期間中の家賃や経費変動を明示的に反映させることが出来ます。したがって、従来の直接還元法と比べると説明力が向上している点が大きな長所です。
②5年程度の保有期間中に不動産のバリューアップを行い、その後転売を考える短期型不動産投資がかなり一般化しているため、DCF法はまさにそのような投資家行動にうまくマッチしたものとなっており、投資家に受け入れられやすいモデルとなっています。
③将来予測についても楽観的なシナリオや悲観的なシナリオなど、さまざまなシナリオを前提とした試算を行うなかで、現実性の高い価格決定を行うための判断材料を提供できます。

2.短所
①DCF法では予測リスクの反映が割り引き率に織り込まれることになっていますが、割引率の査定根拠が明確でないため、リスクを十分に反映した価格かどうかが不確かです。
②各種のシナリオに基づいて試算できるとはいえ、あらゆるシナリオの想定が出きるわけではなく、評価主体の主観性を排除できるわけではありません。アメリカではDCF法の信頼性について次のような批判を受けた時期がありました。
「一見精緻に見えるが、不確かな予測の積み重ねと、過度に楽観的または悲観的な転売価格の想定により、恣意的な評価が容易に行われる」
③長期投資を行う投資家(例えば年金基金等)からすると、短期転売行動を織り込んだDCF法はふさわしくありません。
④不確実性の高いプロジェクトの場合、DCF法では収支予測を保守的に見込むか割り引き率を高めに設定するなどの方法が取られます。しかし現実の事業では、事業開始時期を延期したり、事業を一時中断するなど経営上のオプションを考慮しながら行われます。DCF法の場合はこのような柔軟な対応ができず、事業実行を前提とした硬直的な評価しかできないため、過小評価される傾向があるといわれています。
                            (引用した書籍名: 後日記入)